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福岡高等裁判所 昭和33年(う)390号 判決 1958年10月17日

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を原判示第三の(一)の(1)の罪につき懲役三月に、同第五の各罪につき懲役八月に処する。

原審における未決勾留日数中百日を右懲役八月の刑に算入する。

理由

弁護人湯川久子の控訴の趣意は同弁護人提出の控訴趣意書及び被告人提出の控訴趣意書中一のロ各記載のとおりであるから、これを引用する。

同控訴趣意(量刑不当)について。

よつて記録を調査し、原審で取調べた証拠を検討するに原裁判所が被告人に対し、原判示第三の(一)の(1)の罪につき懲役三月、同第五の各罪につき懲役八月をそれぞれ量定したのは諸般の情状に照らし寧ろ相当であつてこれを不当とする理由を発見することができないが、被告人は(一)昭和三十一年九月七日銃砲刀剣類等所持取締令違反罪により逮捕され、同月十日勾留され、同年十二月二十二日保釈許可決定により即日釈放され、更に、(二)昭和三十二年一月二十一日傷害罪により逮捕され、同月二十五日勾留され、同年七月十七日保釈許可決定により同月十九日釈放されているので右(一)においては四十八日間、(二)においては百八十日間その身柄を拘束されていたこと及び原判決は被告人の未決勾留日数を本刑に算入していないことはいずれも所論のとおりであるところ、論旨は右のように原判決が被告人に対し未決勾留日数を少しも本刑に算入していないことを以つて量刑不当の理由の一つとして主張するので、進んで更に記録について原審における本件審理の経過状況を調査するに、右(一)の関係では被告人は昭和三十一年九月十八日銃砲刀剣類等所持取締令違反及び火薬類取締法違反罪として他の五名の共同被告人と共に起訴されその最初の公判期日たる同年十月十日の第二回公判には被告人の弁護人不出頭のため何等の審理が行われず、次の同月十七日の第三回公判において冒頭手続が行われ、被告人は公訴事実全部を認めて検察官請求の関係書証全部に同意したので、被告人供述調書及び情状証拠を除いてその他の証拠につき証拠調が行われたが、その後の同年十一月十六日、昭和三十二年一月三十日、同年四月五日の第四回ないし第六回公判においては被告人関係では何等審理が行われておらず、一方前示(二)の関係では、昭和三十二年二月一日起訴され、これより先同年一月二十六日起訴された恐喝事件と併合の上同年二月二十八日第一回公判が開かれ、被告人は公訴事実全部を認めた上検察官請求の書証全部に同意したので、その証拠調べを終わり弁護人より情状証人一名の申請があつて採否留保のまま続行され、同年三月十四日の第二回公判期日は前記(一)の事件と審理併合の予定で変更されて同年四月二十三日右(二)の事件を前記(一)の事件に併合決定されたが、その後の同年五月十三日及び同月十五日の第七・八回公判にも被告人関係では単に前記情状証人の採用決定が行われた外何等の審理なく、その次の同年七月十七日の第九回公判において右証人の尋問が行われて同日保釈許可決定により同月十九日釈放されたことが認められる。原審における右の審理経過に鑑みると、前記(一)の勾留は起訴後保釈許可により釈放されるまで三十五日に過ぎないのでしばらく措くとするも、(二)の勾留は傷害罪の起訴後保釈許可により釈放されるまで百六十九日であるが、その全部が原審における被告人の本件審理に必要とされたものとは到底認め難い。素より原審においては、被告人以外の横山和夫等八名の共同被告人に対する殺人未遂等被告事件をも被告人に対する本件被告事件と併合審理しているので、これ等共同被告人関係の事件審理に相当日数を要していることが十分窺われ、その為被告人の未決勾留が長くなつたのも已むを得ないところであり、又未決勾留日数を本刑に算入すると否とは当該裁判所の自由裁量に属するところであるが、原審としては少くとも他の共同被告人関係の事件処理の為にのみ要したものであり、被告人関係の事件処理に必要でなかつた未決勾留日数は、被告人の本刑に算入するのが相当であると思料される。いうまでもなく、未決勾留の本刑算入は、刑の内容に関するものではなく、その執行方法に関するものであるが、これを本刑に算入するときは、その算入された日数だけ本刑の執行があつたものと看做され、本刑の執行による個人の法益の剥奪をそれだけ軽減することになるのであるから、この意味において刑の量定に準ずるものと考え得べく、その不当は刑事訴訟法第三百八十一条にいわゆる刑の量定不当に包含されると解するのが相当であると思料する。しかるに、原判決が被告人の前示未決勾留日数を一日も本刑に通算していないこと前説示のとおりであるから、結局原審の刑の量定は不当であるというべく、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項により原判決中被告人に関する部分を破棄し、同法第四百条但書に基き、当裁判所において直ちに判決する。

そこで原判決が認定した被告人の所為中原判示第三の(一)の(1)の内拳銃所持の点は、銃砲刀剣類等所持取締法附則第九項、銃砲刀剣類等所持取締令第二条、第二十六条第一号に、同実包所持の点は火薬類取締法第二十一条、第五十九条第二号に各該当し、以上は一個の行為で数個の罪名にふれる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段、第十条により重い銃砲刀剣類等所持取締令違反罪の刑をもつて処断すべく、これと原判決掲記Ⅱの(D)の確定裁判を経た罪とは刑法第四十五条後段の併合罪であるから、同法第五十条により未だ裁判を経ない右銃砲刀剣類等所持取締令違反罪の刑による罪について処断すべく、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期範囲内において被告人を懲役三月に処し、原判示第五の(一)の(1)の点は刑法第二百四十九条第一項、第六十条に第五の(一)の(2)の点は同法第二百四十九条第一項に、同第五の(二)の点は同法第二百四条、罰金等臨時措置法第二条第三条に各該当し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるので右原判示第五の(二)の罪の所定刑中懲役刑を選択した上同法第四十七条本文、第十条に則り犯情の最も重い右原判示第五の(一)の(1)の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において被告人を懲役八月に処し、同法第二十一条に従い原審における傷害罪の未決勾留日数中百日を右懲役八月の刑に算入することとし、なお刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青木亮忠 裁判官 木下春雄 内田八朔)

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